秋晴れの北八ヶ岳2013/10/12

 3:20
 麦草峠の駐車場には、既に、20台程度の車が停まっていた。
 一番奥の角が空いていたので、そこに車を停めて外に出て空を見上げると、満天の星空。
 昨年10月に、那須岳の峠の茶屋駐車場から見上げた星空にも負けず劣らず素晴らしい。
 急いでデジカメを天に向けて、長時間露光(と云っても、自分のコンパクトデジカメでは30秒がMAXだが...)で写真撮影。
 しかし、何枚か写真を撮っている間に雲が湧きだし、あっと云う間に、星空を飲み込んでしまった。
 しかたなく、車に戻って、仮眠をとる。

満天の星空は、やがて厚い霧に隠れてしまった

 5:00
 激しい風の音に目を醒ませて外に出てみると、辺り一面、真っ白な霧の中。
 10m先も薄ボンヤリしていて、その上、強風が、あとからあとから霧の粒を運んでくるので、周囲の霧の密度は増すばかり。
 見上げると、厚い霧のカーテンの先には、明るさがあるので、雨になることはないだろう。
 今日の行程は、ゆっくり歩いても半日もかからない「のんびりコース」なので、もう少し寝ておこう。

 6:00
 相変わらずの強風と濃霧の中、早くも駐車場は満車になっている。
 最初は、そんなに早く(0:00)家を出る予定ではなかったが、夜中に到着しておいて正解だった。
 朝食に、おにぎりと練乳フランスを食べて、とりあえず、超速効インスリンは、いつもより2単位減らして打つ。
 それから、持効型インスリンを...

 6:45
 麦草ヒュッテ前の登山口から、茶臼山に向けて出発。
 歩き初めて少しの間は木道が続くが、やがて、登山道は、北八ヶ岳らしい森の道となる。
 強風に煽られた木々の枝葉から、絶え間なく、大粒の水滴が落ちてくる。
 大石峠を過ぎると、足元には大きな岩が目立ち始める。
 木の枝から落ちてきた水滴に濡れた岩は滑りやすくなっているので、なるべく岩を避けて歩く。
 風は、相変わらず、周囲の木々を大きく揺らしている。
 上空も、真っ白な霧に包まれたままだ。

茶臼山に向けて徐々に斜度を増す登山道

 登山道の傾斜が少しづつキツくなってくると、足元に転がる石にも、次第に、拳大より小さな岩屑が混じりはじめ、やがて、視界の悪い茶臼山の山頂に届く。
 霧は晴れる様子もなく、山全体を覆い尽くしているようにも思えるが、折角ここまで来たのだし、時間はたっぷりあるのだから、とりあえず展望台まで行ってみることにした。
 途中で、先行していた3人パーティーが戻って来たので、展望台の様子を訊いてみると、

「2分に2秒くらい天狗岳が見えるけど、その2分を待つのが辛い」

 とのこと...
 森の中でこれだけ風を感じるのだから、吹きっさらしの尾根には、とんでもない風なのだろう。
 その上、パーティーの一人は、Tシャツに半ズボンと云う服装なのだから、いくら肥っているからって、かなり厳しかったに違いない。

 展望台に出てみると、その言葉は誇張でも何でもなく、もの凄い突風が濃いガスと共に、斜面を吹き上がってくる。
 ちょっとでも気を緩めると、身体が飛ばされそうになる。
 こんな強風は、4年前の夏の篭ノ登以来、久々の経験だ。
 それでも踏ん張って赤茶けた尾根の端まで進むと、時折、ガスが晴れて、眼下に茅野の市街が一望できる。
 左に目を転じると、真っ白なガスの中から、いかつい姿をした天狗岳が、忽然と現れたかと思うと、その姿に見とれる間もなく、再び、厚いガスの中に消えてしまう。
 斜面に突き出た岩の間でガスの切れ間を待っていると、頭の後ろが急に明るくなったかと思うと、目の前の白い帷に虹色の輪がかかり、その中心に、黒い人影が...
 いわゆる「ブロッケン現象」だ。
 慌ててカメラを構えるが、ガスの流れが速すぎて、あっと云う間に太陽が隠れてしまう。
 太陽が姿を現しているのは、僅か数秒間...
 この数秒の間で、しかも、目の前に、ちょうど良い厚さの霧が幕を張る一瞬を、カメラを構えて待つのも、結構辛い。

一瞬のガスの切れ間に、ブロッケンの妖怪が姿を現す

 強風の展望台を後にして、縞枯山を目指す。
 ガスは、まだ暫くは晴れる気配はないが、ガスの切れ間に時折覗く空は、青く晴れわたっている。
 急な岩の斜面を下る途中で、後から来ていた2人連れに追い付いた。
 どうやら、自分達が展望台で強風と戯れていた間に、追い越されていたようだ。

「展望台、行かれたンですか?どうでした?」
「風が強くて大変だったけど、ブロッケンも見れましたよ」

 そんな会話を交わして、先に進む。
 茶臼山と縞枯山の間の広いコルを過ぎてひと登りすると、たち枯れたコメツガやシラビソが現れ、登山道は、その間を縫うようにつながっている。

 登り始めて2時間弱で、縞枯山山頂に到着。
 縞枯山の頂は、どこが山頂なのか分からないほど長い稜線で、道標は、一番北端の、雨池峠への降り口に建っている。
 立ち枯れた木々の間には、腰を下ろすスペースもないし、そもそも、展望もなにもないのに、この強風の中に居続ける理由などないので、写真を撮っただけで、そそくさと下り始める。

縞枯山山頂はいまだ濃いガスの中

 大きな岩が重なりあった登山道だが、意外と歩きにくい。
 アルプスのような角張った岩ならまだしも、全体的に丸みを帯びた岩は、その上、木々の枝葉から落ちる水滴に適度に濡れているため、予想以上に足を取られやすいのだ。
 やがて、少し下に、先程の3人連れの姿が見えて来たが、どうやら彼らも、滑りやすい岩畳に苦戦しているようだ。

 約20分かけて、ようやく雨池峠に辿り着いたが、ここは正に風の通り道。
 樹林の中では殆ど気にならなかったが、やはり、まだ強風は吹き続けている。
 結局、ここでも休憩することなく、雨池に向かって下る。
 雨池への下りは東斜面になるため、西から吹き上がる風は山に遮られて、さっきまでの強風がまるで嘘のようだ。

 約30分ほど下ると、登山道は、幅の広い林道に出る。
 林道の両脇には、ダケカンバやナナカマドが色付いて、澄みきった青空を背景に、一服の絵画を見るようだ。

秋の澄んだ青空の下、紅葉が美しい

 暫く林道を下った後、再び山道に入るとすぐに、木々の間からキラキラと輝く水面が覗いて見えてくる。
 
 雨池だ。

 笹本稜平の未踏峰は、それぞれ問題を抱えた3人の若者が、この池の畔に建つ山小屋の主と出会い、山小屋でアルバイトを続けながら、小屋の主と共にヒマラヤの未踏峰を目指す中で、徐々に、生きている価値に気付かされると云う、いかにも青臭い物語ではあるが、実際にここに来て、秋の青空を映して穏やかに水を湛える池を見ていると、まるで、自分もその青臭さの中に溶け込んでしまったような錯覚に陥る。

 畔の岩に腰掛けて、おにぎりを食べる。
 血糖値を測ると少し高めだったので、超速効型と持効型のインスリンを、それぞれいつもの通りに打つ。

 暫く水面を眺めて静かな時間を過ごした後、周回ルートをとって、池の対岸に向かう。
 対岸から見る雨池は、北八ヶ岳の稜線を背景にして、これまた美しい。

 
雨池の水面は、秋の陽の光を受けてキラキラと輝いていた

 雨池を後にして、麦草峠に向かう。
 最初は暫く木道が続き、次に林道を約5分ほど歩いて、再び山道に入ると、そこは、正に、北八の森。
 鬱蒼とした樹林帯と、苔に覆われた岩の転がる道が続く。
 やがて、街道を走る車の音が耳に届くようになると、背の高い森の木がまばらになり、熊笹の生い茂る明るい道に出る。
 ゴールはもうすぐだ。

 休憩を入れても5時間弱と云う短い行程だったが、これまでの山旅とはひと味違う喜びを感じることのできた、思い出に残る山行となった。

(本日のコースタイム)
麦草峠6:45---7:40茶臼山7:40---7:42展望台7:50---8:25縞枯山8:25---8:45雨池峠8:45---9:35雨池9:55---11:20麦草峠

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