南アルプス再訪(1) ― 2015/08/11
東京の連続猛暑日の記録が止まったと言っても、異常な暑さは変わらず、その上、午後になって、中途半端に小雨など降るものだから、熱せられたアスファルトから立ち上る水蒸気で、正に蒸し風呂状態。
そんな羽村を抜け出して、やって来ました南アルプスの玄関、芦安の駐車場。
ところが、今年はやっぱり異常気象なのか、ここでも、車の中にいると汗ばむほどだ。
一体、どうなってンや?
何はともあれ、広河原行きの始発が5:10なので、4時間ほど眠ろう。
異常なほどの寝苦しさと流れる汗に目が醒めて、スマホの時計を見ると2:30
いくら異常気象と言っても、アルプスの麓の真夜中で、こんなに暑いわけがない。
血糖値を測ってみると47
急いでブドウ糖を飲んで、手近にあったクッキーを食べる。
暫くすると汗は引いていき、ようやく、少しだけ開けていた窓から入り込んでくる風の冷たさに気づいた。
4:00
目を醒まして外を見ると、まだ薄暗い広河原行きの乗り合いタクシー乗場には、次々と、ワンボックスタイプの大型タクシーが集まってきている。
駐車場に停められたほかの車からも、大きなザックを担いだ男女が集まってくる。
トイレに行くついでに、係の人に尋ねると
「定刻は5:10だけど、お客さんが集まったら、すぐに出す」
とのこと。
早く出発しても、結局、夜叉神のゲートが開く5:30までは足止めになることは分かっていたが、一分でも早く山の空気が吸いたくて、急いで車に戻ると、寝起きの奥さんを急かせて軽い朝食を済ませると、5台目のタクシーに乗り込んだ。
定刻より約20分早く芦安駐車場を出発した車は、懐かしい景色を車窓に流しながら、広河原を目指す。
案の定、夜叉神ゲートで10分ほど待たされたが、広河原には6:00前に到着。
奥さんがトイレに行っている間に、北沢峠行きのバスの時間を調べてみると、なんと、6:50が始発ではないか!?
帰りのバスの時間ばかり気にしていて、始発の時間のことまで頭になかったが、そう言えば、3年前の北岳登山で初めてここを訪れた時、誰かがボヤいていたことを薄っすらと思い出した。
インフォメーションセンター2階の臨時警備派出所の窓口に登山届を提出して戻ってみると、既に、乗車券を購入した登山者達が、バス停にズラリと並んでいる。
急いで2名分の乗車券を購入して、列に並ぶ。
6:50
補助席まで一杯になったマイクロバスは、北沢峠へ向けて出発。
南アルプスの山歩きは今回で3度目だが、広河原から先に行くのは初めてで、車窓からの眺めに、ワクワクが止まらない。
野呂川出合を過ぎて暫くすると、車内アナウンスで、左手前方に千丈ヶ岳が紹介されると、思わず身を乗り出してしまった。
そう。
今回の山歩きの予定は、千丈ヶ岳。
最初は、北沢峠の長衛山荘(今は、こもれび山荘に改名したらしい)に宿泊して、甲斐駒と千丈を2日でやっつけようかとも思ったが、折角山に一泊するのなら、峠の森の中よりも、やっぱり山の上が良い。
それに、北沢峠から広河原に下るバスの最終便が16:00と言うことを考えると、2日目の千丈はかなり忙しくなりそうだ。
もちろん、山の中でもう一泊…と言うテもないではないが、折角なら、お気に入りの桃の木温泉に泊まりたい(一昨年の鳳凰三山縦走の時は、あいにく満室で泊まれなかったが、今年は、まだ空き室がありそうだった)。
てなわけで、今年の夏山は、千丈ヶ岳に決めたが、ただ、一般的なルートを登って降りるだけでは面白くない。
そこで、登りは、一般的な、北沢峠から大滝の頭、小千丈を経由して千丈ヶ岳に至る小千丈尾根を辿るが、降りのルートは、最近はあまり登山者が入らないという丹渓新道にとることにした。
このルートは、他の登山者の喧騒に煩わされることなく、静かな山歩きが楽しめるだけせなく、天気が良ければ、中央アルプスから北アルプスまでの大展望を眺めながらの陵線歩きが楽しそうだ。
問題は、下山口が北沢峠より伊奈側になって、バスの乗り継ぎがちょっと不便になることだが、まぁ、何とかなるだろう。
7:25
出発直前にタブレットの山旅ロガーをONにしたが、GPSの電波がなかなか捕まえられず、現在地の特定ができないので、仕方なく、GPS探索中にしたままタブレットをザックの天蓋に仕舞って、小千丈尾根を登り始める。
緩やかな樹林帯の登山道を暫く登ると、道は一旦下り、その後次第に傾斜がきつくなってきて、背中を汗が流れ出す。
しかし、下界での汗とは、明らかに質が違う。
ねっとりと肌に張り付くようなあの不快感が、ここでの汗には感じない。
暑いのだけど清々しい。
「山を歩いている」と云う実感が、身体中から湧き出してくる。
何せ、今年になって山らしい山に登るのは6月の毛無山以来2度目なのだから、如何に身体が「山」を欲していたことか...
8:55
藪沢大滝ノ頭に到着。
これから登る人たちだけでなく、昨夜は千丈小屋に泊まったのであろう、既に下って来る人も含めて14、5人の男女が、思い思いの場所に陣取って、休憩をとっていて座る場所がなかったので、写真だけ撮って先に進む。
大滝ノ頭から更に30分ほど登ると、森林限界をとなり、目の前に小仙丈ケ岳、左手に北岳の雄姿が姿を現す。
振り返ると、甲斐駒ヶ岳が、右肩に摩利支天を従えて、堂々と聳えている。
「わぁ、凄い!」
自分たちの後から登ってきた若い男女のグループも、歓声を上げている。
ザックからグレープフルーツを取り出して、素晴らしい景色を眺めながら、奥さんと半分ずつ食べる。
正に、至福のひとときである。
ここから先は、ハイマツの間を縫うように、明るい稜線歩きとなる。
日差しは強いが、流石に、標高2500mを超える山の上を渡る風は清涼で、先ほどまでのような汗は出てこない。
右手に、藪沢を挟んで、明日下る予定の馬ノ背の稜線を眺めながら30分ほどで小仙丈ケ岳に到着。
ここまで来て、ようやく、「南アルプスの女王」とも称される仙丈ケ岳が、その優美な姿を現す。
小仙丈ケ岳から、一旦、ガレ場を10mほど下り、しばらく平坦な尾根道を行き、再び10mほど下ると、いよいよ、主峰への最後の登りとなる。
千丈小屋への分岐を過ぎて、山頂に立つ登山者達の姿もはっきりと見える辺りまで来たとき、突然、いつもの痛みが右太腿に走る。
手近にあった大きな岩に両手をついて、ゆっくりと屈伸を繰り返す。
曲げるのは何でもないが、脚を伸ばそうとすると、太腿がピクピクと痙攣を起こす。
何度か屈伸を繰り返していると、下ってきた男の人に「大丈夫ですか?」と、心配顔で声をかけられた。
自分では、普通に屈伸をしている「フリ」をしたつもりだったが、どうやら痛みが顔に出ていたようだ。
「ははは、ちょっと、脚つってしまって...」
と、苦笑いで返しながら、ゆっくりと歩き始める。
数歩、歩いては屈伸し、また数歩、歩く...
そんなカメさん歩きを暫く続けていると、痛みは徐々に引いていき、
11:50
仙丈ケ岳に到着
しかし、この頃になると、山肌を白いガスが沸き上がり、周囲の山々を隠し始めていて、展望はあまり良くはない。
晴れていれば大仙丈ケ岳までピストンする予定だったが、暫く待って、ガスが晴れないようなら、このまま小屋に下ろう。
おにぎりを食べて、紅茶を飲んでいるうちに、何だかとても気持ちが良くなって、あくびがでてきた。
ふと見ると、奥さんも、岩に腰かけて居眠りしている。
標高3033mでの昼寝とは、何とも贅沢なひと時だ。
1時間ほど待ってみたが、ガスは一向に晴れそうもないので、大仙丈ケ岳へのピストンは中止にして、藪沢カールの縁を回って千丈小屋に向かって下り始める。
「明日の朝、天気が良ければ、ご来光を見に登って来よう」
(本日のコースタイム)
北沢峠(7:25)---(8:55)藪沢大滝ノ頭(8:55)---(9:25)六合目(9:40)---(10:15)小仙丈ケ岳(10:20)---(11:45)仙丈ケ岳(12:40)---(13:00)千丈小屋
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