4年越しの北アルプス2011/08/13

合戦尾根の先に、目指す、燕山荘が見える
 12日23:00
 圏央道日の出IC入口で、「一宮御坂で事故渋滞」との電光掲示板に出鼻を挫かれた感じもあったが、「まぁ、多少到着が遅れても、仮眠の時間は十分とれるだろう・・・」と、久々の北アルプスに胸躍らせながら、中央高速を西に向かう。
 夏休みの交通集中も重なって、結局、中房温泉に到着したのは予定より1時間以上遅れた4:00・・・
 登山口よりかなり下の方から、路肩には、既に、駐車場から溢れた車が、ズラリと並んで停まっている。
 「あっちゃ~」
 上まで行っても停められない可能性もあるが、かといって、道幅が狭くて、ここでUターンすることはできないので、何はともあれ上まで行くことにする。
 まず、真正面の第二駐車場に突っ込んでみたが、当然の如く満車・・・
 一番上まで登って、狭いスペースでUターンさせて道路まで戻って、橋を渡る。
 一旦、中房温泉のロータリーまで登って戻って、橋の手前を右に下って、第一駐車場へ・・・
 坂の上からざっと見た感じでは、ここも満車で停められそうに思えなかったが、ダメ元で進入してみると、右隅のフェンス前に、辛うじて1台分のスペースが見つかったので、Lucky!!
 4:30、駐車場到着

 5:30
 1時間ほど仮眠して、山支度を整える。
 その間にも、何台か車が入って来たが、停める場所かなくて諦めて出ていく。
 7時の出発予定だったので、奥さんをもう少し寝かせておいて、ひとりで、周辺を散歩してみた。
 安曇野の早朝の清々しい空気を胸一杯に吸い込むと、頻繁にアルプスを歩き廻っていた昔の記憶が蘇る。

 最後に北アルプスを訪れたのは、下の息子が小学校3年生の時だから、もう10年になる。
 その後は、子どもの少年野球のお手伝いなどで、休日も時間がとれなくなって、アルプスどころか山歩き自体から遠ざかっていたが、その下の息子も高校に入って、ようやく自分の時間がとれるようになったので、
 「そろそろ山歩きを再開しようか!?」
 と、奥さんと話しながら、燕登山を計画したのが4年前の夏・・・
 ところが、その直後に、1型糖尿病発症し、登山どころではなくなってしまった。

 あれから4年・・・
 とうとう、ここに戻ってきた。
 信州の青い空と、緑の木々は、あの頃と同じ優しさで、迎えてくれているようだ。

 6:40
 駐車場を後にして、中房登山口へ・・・
 登山口は、色とりどりのザックを背負った大勢の登山者で賑わっていた。
 備え付けのポストに「登山届」を入れて、6:50、いざ、出発!
 売店脇を抜けて登山道に入ると、早速、樹林の間の急登となる。
 つづら折れの道を30分ほど登ると、傾斜が少し緩やかになって、第一ベンチに到着。
 流石に夏山シーズン真っ盛り・・・
 丸太のベンチに座りきれない登山者たちが、あちこちに散らばって、休憩をとっていた。
 私たちも、ここで小休止。
 4年前に山歩きを再開して以来、こんなに沢山の登山者と一緒にいるのは、昨年、今年と2回続けて参加した、患者会の富士登山以外ではなかったことだ。
 当然、登山者が多ければ、登山道も渋滞する。
 急ぎたくても、前が詰まっていれば、待つしかないし、逆に、ゆっくり登りたくても、後ろから押される形で、ついついペースが上がってしまう。
 事前に調べておいた、この付近の今日の天気は、「晴れのち雨か雷雨」と云うことだったので、とりあえず「昼までに燕山荘に着けば良い」くらいのペースを維持するつもりだったが、知らず知らずのうちに、周りの人たちのペースに合ってしまって、登り始めて1時間もしないうちに第二ベンチに到着。
 ここも、大勢の登山者で賑わっていて、小さな・・・小学校低学年らしい子どもも何人か、大人たちに混じって休憩している。
 
 第三ベンチで休憩している時、若い二人連れの、耳を疑うような会話が聞こえてきた。
 地図を広げて、ここから先のルートを確認していた一人が、突然こんなことを言い出したのだ。
 「やっぱり、ここが合戦尾根って云うンだ」
 それに応えるように、もう一人も、「ふ~ん・・・」

 えっ???
 コシツら、自分がどこ歩いているのかも分かってなかったの?
 いくつものルートがあって、途中で枝分かれしながら登って来たのならまだしも、登山口から一本道を登って来る単純なルートで、自分が歩いている尾根も分からないなんて、一体、何考えてんだ!
 そもそも、どうやって登山計画立てたのだろう?
 自分が歩いている尾根の名前さえ分かっていない状況で山に入るなんて、非常識極まりない。
「山ガール」だの、「岳」だのと「登山ブーム」も良いけれど、こんな、山をなめきった手合いが増えているとしたら、恐ろしいことだ。

 富士見ベンチを過ぎて、ルートがほぼ直角に右(北)に折れるところで、突然、左手(南西)の視界が開けて、大天井から横通岳を超えて常念岳までの稜線が眼に飛び込んできた。
 もう20年近く前に、奥さんを始めて北アルプスに連れて来た時に辿ったコースだ。
 あの時は、徳沢から長塀尾根を蝶ヶ岳に登り、常念、大天井と表銀座を北上した後、東鎌尾根で槍ヶ岳に渡って、大キレットを超えて北穂高、奥穂高、前穂高と経由して岳沢から上高地に下ると云う4泊5日の大縦走をやってのけたものだが、今では、流石に、そこまでの体力は残ってないだろうなぁ・・・
 懐かしい山並みを眺めながら、しばし、感慨に耽る。

 9:30、合戦小屋着
 到着してすぐに目に入ったのが、スイカ・・・
 1/8カットで450円
 山の上とは云え、決して安くはないと思うが、大量に汗をかいた身体には、水分たっぷりのスイカは何よりのご褒美だ。
 休憩所にザックを降ろし、真っ赤なスイカにかぶりつく・・・
 
 「うっま~ぃ」
 
 合戦小屋を後にしてひと登りで合戦の頭に出ると、目の前に、目指す燕山荘の建物と、そこから右に連なる燕岳の稜線が姿を現す。
 当初の予定よりも随分早く、ここまで来てしまった。
 頭の上にはまだ青空が広がっていて、急な天気の崩れはありそうもないので、ここからは、景色を楽しみながら、ゆっくり登ろう・・・

 11:00、燕山荘着
 水俣川の切れ込んだ谷の向こうに、北アルプスの峰々が、遮るものなく延々と連なっている。
 天を衝く槍の穂先から左奥に向かって、大喰岳、西岳、南岳と続き、大きく切れ落ちた大キレットの先に北穂高岳と、昔辿った主稜線が続く(あいにくここからでは、手前の大天井の稜線の陰になって、奥穂高岳までは望めなかったが・・・)。
 そして、こちら側には、双六、三俣蓮華、黒部五郎と、名だたる北アルプスの名峰が並び、燕岳の西斜面の向こうには、遠く、立山連峰までが顔を覗かせている。
 正に、絶景!

 山荘で宿泊手続きをして、部屋に案内してもらおうと靴を脱いだ途端に、左ふくらはぎに鋭い痛みが・・・
 暫く土間に座っていると、痛みが和らいできたので、部屋に案内してもらう。
 案内されたのは、別館1階の中央付近、3畳の小区画に6つの枕が並んでいる。
 案内してくれたスタッフの話では、「ひとまず、1畳半を2人使っていてもらって良いが、今日はかなり込んでいるので、6人入ってもらうかも知れない」とのこと・・・
 まぁ、夏山シーズン真っ盛りの、人気のコースの人気の山小屋だから、我慢するしかないよね。
 ザックを降ろして、濡れたシャツとズボンを着替えていると、また、ふくらはぎがつってきた。
 時間があれば大天井までピストンしようと考えていたが、これじゃ、ちょっと無理そうなので、両脚のふくらはぎと太股にエアサロンパスをたっぷり拭き付けて、横になっていることにした。

 1時間ほど休んで、小屋の裏のテラスに出て昼食にする。
 薄いガスが湧きあがってくる西斜面の眼下には、先ほど登ってきた合戦の頭が見下ろせる。
 いつもの通り、コンロで湯を沸かしてカップ麺を作って、出掛けにコンビニで仕入れたおにぎりを食べて部屋に戻ると、流石に仮眠1時間がこたえたのか眠くなってきたので、ひと眠りすることにした。

 売店でお土産をみたり、展望喫茶でケーキ(これが、また、都会のケーキ屋で食べるのと同じくらいに上手い)を食べたり、奥さんは記念のハガキを書いたりと、思い思いの時間を過ごした後、夕方になったので、夕陽を見に表に出て見たが、西の空には雲が垂れこめて太陽を遮っていた。
 それでも、雲が切れてくれないか・・・と期待しながら、コマクサが群生している斜面の脇に立って、暫く待っていると、両手に売店で買ったと思われるビールとおつまみの袋を持った若者がやって来て、何の躊躇いもなくロープを跨いで、コマクサ群生地の中に入って行く。
 私は思わず「そこ、入らないで!」と注意すると、若者は、キョトンとした顔で「どうしてですか?」と訊き返す。

 -おいおい、どうしてもこうしても、ロープが張ってあるには、それなりの理由があることも想像できないのか!?-
 
 そう云えば、下界の公園なんかでも、ロープが張られて「芝生に入らないで下さい」と書かれた立て看板のすぐ脇で、平気で寝転がったり、走り回っている若者の姿を見かけるが、結局、まともな山の知識もモラルもなく、そう云った下界の延長線上でしか捉えられていないのかも知れない。
 私は、腹立たしさよりも、この若者の無神経さに、情けなくなってしまった。
 そこで、私は、諭すように
 「どうしてって・・・ここは、コマクサの」
 と、いかにもベテラン山ヤの威厳をもって、その理由を教えようとしたのだが、何と、「植生保護」と云う、この下りでは最も重要な言葉が出てこない。
 マズい!
 格好良く、若者の過ちを正そうとしているのに、肝心な言葉が出てこない。
 頭では分かっているのだが、言葉として出てこない。
 そして、慌てて口をついて出てきた言葉は、こともあろうに
 「アレしてるから・・・」

  ・・・・・・・

  な・さ・け・な・い

 -折角注意したのに、「アレ」じゃ、分からんやろが-

 都会の若者だと、きっと、「アレって何ですか~ぁ」などと、相手を小馬鹿にしたような言葉が返ってきても良さそうな場面で、幸いにも、その若者は「アレ」ではなく「コマクサ」の方に興味を持ったようだった。
 「コマクサって何?」
 と、一緒に居た女の子に訊いている。
 女の子が、傍らのコマクサを指さしながら、何やら話していたかと思うと、若者は素直に群生地から出てきて、私たちから少し離れた道端にしゃがみ込んで、おとなしく、北アルプスの夕景を眺め始めた。

 まぁ、ここまで登ってくるのだから、根は良いヤツなのかも・・・

 勝手にそんな想像をしながら、雲が切れそうにないので、夕陽は諦めて小屋に戻る。

 到着が早かったので、夕食の時間も16:30からと、いつもよりもやけに早かった。
 これじゃ、夜中に腹へりそうだなぁ

 21:00、消灯
 ・・・なんて云われても、こんな時間に寝られるわけがない!
 ヘッドランプを片手に、裏のテラスに出て見る。
 東の空には満月が輝いて、夜の山小屋を明るく照らしている。
 幻想的な風景の中、涼しい風が、薄い霧を吹き飛ばしていく。
 明日も良い天気になりそうだ。


(本日のコースタイム)
中房温泉登山口(6:50)―――(7:20)第一ベンチ(7:25)―――(7:45)第二ベンチ(7:55)―――(8:20)第三ベンチ(8:25)―――(8:55)富士見ベンチ(9:00)―――(9:30)合戦小屋(10:00)―――(11:00)燕山荘